文部科学省が「次期学習指導要領等に向けた審議まとめ」について、パブリックコメント(意見募集)を開始しました。
今回の学習指導要領改訂では、民主的で持続可能な社会の創り手をみんなで育むため、次の3つの方向性のもと、さまざまな取り組みが示されています。
主体的・対話的で深い学びの実装
多様性の包摂
実現可能性の確保
マイノリティの子どもたちが学校から排除されないあり方を実現するため、多様な子どもたちを包摂する柔軟な教育課程を編成できるようにする「調整授業時数制度」の創設や、障害の社会モデル、合理的配慮の提供に関する記述などが盛り込まれています。
AIS-netでは、NPO法人DPI日本会議、NPO法人School Voice Projectと協働し、上智大学教職・学芸員課程センター長・総合人間科学部教授の澤田稔さんの協力のもと、次期学習指導要領に向けた共同提言をまとめました。
2026年4月には記者会見を行い、文部科学省の担当課に提言書を手交しました。
私たちが要望したのは、次の5つの点です。
包摂(Inclusion)には、もともと多様性の尊重という意味が含まれていると考えられます。
にもかかわらず、「多様性の包摂」という表現を用いると、「多様性を包摂する」という論理を前提にすることになります。
この論理では、「多様性を包摂する」主語・主体の側が、多様性の外に位置することになってしまいます。
その結果、「多様性を自らに内包しない主体が、それ以外の多様な存在を主体の側に統合する」という、インテグレーション(統合)の論理に近づく危険性があります。
そのため、私たちは「包摂/多様性の尊重」という表現への変更を求めています。
主体的・対話的で深い学びを実装するためには、その土台として、子どもたちにとって安全・安心な環境が欠かせません。
「不登校問題」や「特別な教育的支援を受ける児童生徒の増加に伴う教員不足問題」を踏まえた改訂が行われるのであれば、まずは、子どもたちが安心してその場にいることができること、すなわち「包摂」を最優先課題として考えていただきたいです。
参考資料
澤田稔(2026)「学習指導要領次期改訂動向について気になること(その1)―矛盾・ジレンマの解消=不可視化という傾向性について―」
調整授業時数制度による裁量的な時間の「学習枠」について、「学習等枠」とし、居場所としての機能も充実させることを求めています。
教育である以上、能力形成を重視せざるを得ないことは理解できます。
しかし、不登校という現実の問題に向き合う必要性が共有されている以上、能力形成の前に、「包摂/多様性の尊重」を重視した類型が明示されるべきではないでしょうか。
現行案の「学習枠」という表現では、教室に居づらい児童生徒が教室に適応できるように、本人の学習スキルを高めようとする動きが加速することを懸念しています。
これは、困難の原因を個人の側に求める「個人モデル(医学モデル)」の考え方に偏る危険性があります。
例えば、次のような活動も大切にできる枠組みが必要だと考えます。
初発の思考や行動を起こす力・好奇心につながる活動
遊びの中で興味のあることを探したり、試したりできる活動
自己理解や他者理解を深められる活動
安心して友だちや先生とコミュニケーションができる環境づくり
裁量的な時間の「研究・研修等枠」についても、「包摂/多様性の尊重」「実現可能性の確保」の推進に、より寄与する打ち出し方を求めています。
現行案では、学力の向上や各教科等の学習に直接的に還元できる研究・研修活動に限られると読み取られてしまう危険性があります。
また、「学習改善や教師の指導改善に直結する」「教育の質の向上に直結する」という文言が多く登場します。
これらの言葉は現場を過度に縛り、「包摂/多様性の尊重」を阻害する可能性があるため、避けた方がよいと考えます。
さらに、包摂や多様性の尊重を実現するためには、教職員のゆとりや共通理解が不可欠です。
そのため、次のような取り組みも奨励される必要があります。
教職員の関係構築・チームビルディング
校内支援体制の構築と運用
組織開発や授業改善につながる校内有志プロジェクト
個々の教職員の問題意識や関心に根ざした教材研究や授業開発
マイノリティ属性を持つ子どもたちがいることを前提とした、学校の体制づくり
現行案に、障害の社会モデルと合理的配慮の考え方が記載されたことは、大変有意義であり、歓迎しています。
一方で、障害に関する部分には、依然として「障害に関する困難の改善・克服」という記述があります。
社会モデルの考え方を採用するのであれば、個人に困難が生じたときに、まず見直されるべきは、その困難さをもたらしている環境です。
障害は、決して「改善・克服させる」ものではありません。
児童生徒自身が「できるようになりたい」と思う気持ちを大切にし、その実現を支える環境を整えることが重要です。
社会モデルと合理的配慮の考え方を踏まえ、そうした環境づくりにつながる自立活動としていただきたいと考えています。
共同提言の詳細
私たちがこうした提案を掲げた背景には、子どもの権利を保障するという考え方があります。
日本政府は1994年に「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」を批准しました。
その後、児童福祉法の改正(2016年)や、こども基本法の成立(2022年)などを通して、子どもの権利条約の理念を踏まえた法整備が進められてきました。
また、教育現場でも、2022年の「生徒指導提要」の改訂において、子どもの権利条約の精神が取り入れられています。
子どもの権利条約では、子どもの養育と発達について、第一義的には保護者が責任を負うとともに、国が保護者を適切に援助する責任も明記されています(第18条)。
これらを踏まえると、子どもたちが家庭を離れ、多くの時間を過ごす学校が、安全・安心な場所であることは不可欠です。
そして、子どもたちの安全・安心を支える教職員自身の安全・安心やゆとりを、国が支えることも必要です。
子どもたちが安心して過ごせる学校をつくること。そのために、教職員も安心して働ける環境を整えること。
この両方が保障されてこそ、すべての子どもたちにとって豊かな学びが実現できるのではないでしょうか。
学習指導要領は、学校での学びや授業時間のあり方を方向づける重要なものです。
子どもたちが、今もこれからも学校から排除されることなく、民主的で持続可能な社会の創り手を「みんな」で育んでいくために。
ぜひ、皆さんが日々感じていることや、必要だと思うことを、次期学習指導要領へのパブリックコメントとして寄せてみませんか。
以下は、AIS-netの共同提言をもとにした意見の参考例です。
文例をそのままコピーして提出すると、同じ内容の重複とみなされ、1件の意見として扱われなくなってしまいます。ご自身の経験や問題意識を踏まえて、ご自身の言葉に書き換えてご提出ください。
「多様性の包摂」という表現を「包摂/多様性の尊重」に変更することを求めます。「多様性の包摂」では、特定の立場にある人が、それ以外の多様な人々を受け入れるという構図になりかねません。学校には、障害の有無、国籍、文化的背景、性のあり方など、さまざまな違いを持つ子どもたちが、もともと共に存在しています。誰かを既存の学校の枠組みに適応させるのではなく、多様な子どもたちがいることを前提に学校の環境や仕組みをつくるという考え方を、基本理念に明確に位置づけてください。
「包摂/多様性の尊重」を、学習指導要領改訂の最優先課題に位置づけることを求めます。主体的・対話的で深い学びを実現するためには、すべての子どもが安心して学校で過ごせることが前提です。しかし現状では、学校の環境や仕組みが合わず、不登校になったり、学びから排除されたりする子どもがいます。子どもを学校に適応させることだけを考えるのではなく、学校の側が変わることを重視し、安心できる居場所や多様な学び方の保障を教育課程編成の基本原則として明示してください。
調整授業時数制度における「学習枠」を「学習等枠」に変更し、居場所としての機能を明確に位置づけることを求めます。学校には、教科学習に取り組む以前に、安心して過ごせる場所や人との関係を必要としている子どもたちがいます。「学習枠」という名称では、学力や学習スキルの向上を目的とする活動に限定されるおそれがあります。遊びや休息、興味・関心に基づく活動、自己理解や他者理解、安心できる人間関係づくりなども、この時間の活用例として明示してください。
裁量的な時間の「研究・研修等枠」について、授業改善に直接結びつく活動だけでなく、インクルーシブな学校づくりや教職員の協働にも活用できることを明示してください。多様な子どもたちを支えるためには、教職員が互いの考えを共有し、支援方針を話し合い、学校の仕組みを見直す時間が必要です。チームビルディング、ケース会議、校内支援体制の構築、組織開発などを具体例として示し、短期的な学力向上に直結しない活動も尊重される制度にしてください。
自立活動に関する「障害に関する困難の改善・克服」という表現を見直すことを求めます。今回、障害の社会モデルや合理的配慮の考え方が盛り込まれたことは歓迎します。しかし「改善・克服」という表現は、困難の原因を子ども本人に求め、本人の努力による適応を優先する考え方につながりかねません。子どもが自ら望む活動や学びを実現できるよう、環境の調整や合理的配慮の提供を重視し、本人の意思を尊重した支援を行うことが伝わる記述に変更してください。
その他の参考:
澤田稔さん(上智大学教授)「次期学習指導要領の改訂に向けた要望」
募集期間
2026年10月6日(火)~11月5日(木)23時59分
提出先
募集要領と対象資料を確認のうえ、指定のWebフォームから提出してください。電話や郵送等では受け付けていません。
意見が1,000字を超える場合は、要旨を記載するよう案内されています。
1回の回答で10件まで意見を記入できます。
氏名・年齢・職業・電話番号・メールアドレスの入力は任意です。団体の場合は、氏名欄に団体名を記載します。
意見本文は公表される場合があります。子どもの氏名や学校名など、個人を特定できる情報の記載にはご配慮ください。
提出された意見への個別の回答は行われないとされています。
自分自身の経験や考えを、自分の言葉で伝えることをおすすめします。
同じ願いや問題意識を持つ人が多いことにも意味があります。そのうえで、学校現場での経験や具体的な課題を加えることで、より実態の伝わる意見になると考えています。
AIS-net(すべての子を包摂する学校づくり推進ネットワーク)
協働:NPO法人DPI日本会議、NPO法人School Voice Project